お知らせ
酸欠・硫化水素事故を防ぐには?
調査作業に必要な安全管理と換気の基礎知識
下水道管路の調査業務では、施工技術以上に**「安全管理」が重要です。
特に、密閉空間での酸欠や硫化水素による中毒事故**は、今なお業界で絶えず発生しており、最悪の場合は命を落とすリスクすらあります。
本記事では、下水道調査に携わる技術者が知っておくべき、酸欠・硫化水素事故の基礎知識と現場での安全管理・換気のポイントをわかりやすく解説します。
1. 酸欠・硫化水素事故はなぜ起こる?
📉 酸欠とは?
空気中の酸素濃度が18%未満になると「酸欠状態」とされ、
-
16%未満で呼吸困難
-
10%未満で意識喪失
-
6%以下で死亡の危険
下水道内は通気性が極端に悪く、酸素が消費されたまま補給されない閉鎖環境になりがちです。
☠ 硫化水素とは?
下水道内で有機物が腐敗する過程で発生する有毒ガス。
特に酸性下での硫酸還元菌の活動により発生し、濃度が高まると極めて危険。
硫化水素濃度(ppm) | 症状 |
---|---|
10ppm以下 | 鼻に刺激臭 |
50ppm | 呼吸困難、目や喉への刺激 |
250ppm | 意識障害、短時間で中毒症状 |
500ppm以上 | 数分で死亡の危険性あり |
2. 下水道調査で事故が発生しやすいポイント
-
雨天後のマンホール内(水位低下でガスが滞留)
-
古い未通気管路(長年空気の流れがない)
-
ポンプ場や貯留施設など大型空間
-
夏季・高温時期(分解促進)
→ これらの現場では**「入る前に必ずガス濃度を測定」**する必要があります。
3. 安全管理の基本フロー
🛠 作業前のルーチン(最低限)
-
現地踏査とリスク評価
-
雨後・地形・過去の事故履歴などを確認
-
酸素・硫化水素濃度の測定(4種ガス検知器)
-
酸素・硫化水素・可燃性ガス・一酸化炭素などを測定
-
測定時は必ず最下部・中間・上部の三段階
-
換気機器の準備
-
送風機+ダクトによる強制換気
-
作業中も常時換気を継続
-
作業手順と人員配置の確認
-
番号札・連絡体制・救出方法の共有
-
保護具の着用
-
ヘルメット、マスク、ガス警報器、命綱など
4. 換気の基礎知識と実務設計
🔄 基本の考え方:「作業員が入る前に空気を入れ替える」
✅ 換気の目的
-
酸素濃度を18%以上に
-
有害ガス(硫化水素・メタンなど)を排出
-
常時換気により再充満を防止
✅ 必要な換気風量の目安
作業空間の容積(m³)を10分以内に1回換気できる風量が理想。
例:φ600の管を延長50m調査 → 内容積 約14m³
→ 必要風量:14m³ ÷ 10分 = 約1.4m³/分
→ 送風機能力としては30m³/分程度を基準とする現場が多い(安全マージン込)
✅ 設置方法の基本
-
ダクトをマンホール底部まで垂らす
-
**出口側の開口確保(空気の逃げ場)**も忘れずに
-
長距離・曲管路には**押し引き送風(2台)**を推奨
5. 実務でありがちなミスとその対策
よくあるミス | リスク | 対策例 |
---|---|---|
測定を省略 or 1回だけ | ガス濃度の再上昇 | 作業中も定期測定を継続 |
ダクトの長さ不足 | 底まで換気されず | マンホール底部まで必ず到達 |
出口が塞がれている | 換気効果ゼロ | 逆側マンホールも開放、誘導流を作る |
送風量が不十分 | 換気時間が長く作業遅延 | 容積に合った送風機を選定 |
現場慣れで油断 | ヒューマンエラー | 毎現場ごとにKY(危険予知)活動 |
6. 酸欠事故を防ぐ文化を育てる
いくら技術的な対策を講じても、**「面倒だからやらない」「大丈夫だと思ってた」**という意識が残っていては意味がありません。
-
現場では必ず声をかけ合う
-
若手・新任作業員への徹底した教育
-
記録・報告・振り返りをルーチンにする
-
体験型安全研修(硫化水素の臭気体験など)も効果的
まとめ:安全管理は“技術”と“文化”の両輪
下水道調査の安全管理は、**機器・換気・測定などの「技術」**と、
**手を抜かず確認し合う「文化」**の両方があってこそ成立します。
酸欠・硫化水素事故は、正しく準備しさえすればほぼ確実に防げる事故です。
だからこそ、「分かっていたけど省いた」で命を落とすような悲劇は、絶対に防がなければなりません。
調査業務に携わるすべての人が、安全の知識と意識を共有することで、現場の質は確実に向上していきます。