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複数年で考える調査計画
人孔と管路をどう“仕分け”するか?
下水道施設の維持管理では、「計画的な調査の実施」が重要です。
とはいえ、調査対象が数百kmにおよぶこともある下水道では、
「すべて一斉に調査するのは不可能」
「年度ごとの予算に限りがある」
「人員・車両・日程の確保が大変」
といった課題に直面するのが現実です。
そんな中、重要になるのが **「複数年に分けた調査計画」と、「人孔と管路の調査対象の仕分け」**です。
本記事では、限られた資源で最大の効果を出すための「調査の優先順位づけと戦略的な分割実施」について、実務的な視点で解説します。
1. なぜ“複数年計画”が必要なのか?
✅ 下水道調査のボリュームと課題
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中核市規模で管路延長1000km以上、人孔数は数万箇所
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人員や機材の制約が大きい
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毎年の予算が一定とは限らない
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毎年同じエリアを調査すると効率が悪い
→ 一度に全てを調べるのではなく、「優先順位を決めて順番に」調査する方が現実的かつ合理的。
2. 何を基準に仕分ける?調査対象の優先順位
🎯 人孔・管路の“調査優先度”をどう決めるか?
以下のような複合的な評価基準を設けることで、調査対象の絞り込みができます。
✅ 優先度スコアの例(項目+点数)
評価項目 | 高リスク例 | 点数 |
---|---|---|
築年数 | 40年以上 | +3 |
管材 | RC管・陶管 | +2 |
土被り | 3m以上 or 極浅 | +2 |
上部道路 | 幹線道路・交差点 | +3 |
苦情・事故履歴 | 漏水・陥没あり | +3 |
補修履歴 | 補修後10年以上経過 | +2 |
→ 合計スコアにより、**「今年度調査」「次年度対象」「経過観察」**などに分類可能
3. 複数年計画の基本パターン(モデル例)
📘 パターン① 地区単位で分割(GIS連動)
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管理区域ごとに調査年をローテーション
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年度別にエリアを地図で色分けして管理
▶ メリット
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計画が分かりやすく説明しやすい
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現場調査の移動効率も◎
▶ デメリット
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リスクが偏在している場合には非効率な可能性
📘 パターン② 優先スコア順で縦断的に抽出
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高スコアの人孔・管路を年次で分割
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管轄やエリアを超えてリスク順に対応
▶ メリット
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最も効率よくリスク対策が可能
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将来の補修・更生計画と連動しやすい
▶ デメリット
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調査エリアが飛び飛びになり、現場の移動負担あり
📘 パターン③ スクリーニング→詳細調査の2段階
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初年度に簡易調査で広く全体を確認
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2年目以降に「要詳細調査箇所」を精密調査
▶ メリット
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限られた調査予算を最も効率的に使える
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結果の“仕分け”にも最適
4. 実務での活用例(中規模自治体)
🏙 事例:X市の人孔・管路調査5カ年計画
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管路延長:約320km、人孔数:約6,500箇所
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初年度:全体をスクリーニング(簡易カメラ調査+資料照合)
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翌年度:スコア3以上のエリアを重点調査(TV調査+目視確認)
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3年目以降:補修計画・GISデータと連携しつつ調査継続
→ 年度ごとの調査結果を“更新型データベース”に蓄積して、判断の継続性・一貫性を確保
5. 調査対象の“仕分け”に必要な資料と手順
📂 準備しておくべき情報
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管路台帳/人孔台帳(設計情報)
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GISデータ(形状・属性・過去履歴)
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陥没・補修・苦情対応履歴
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TV調査・施工記録などの過去データ
✅ “仕分け”ステップ(例)
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必要情報を収集・統合(Excel/GIS)
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優先度スコアを一括で算出
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地図上に可視化(調査優先度マップ)
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年度別調査対象を抽出(A〜Eランク分類など)
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関係部署と調整しながら調査計画確定
まとめ:仕分けと戦略的分割が成功のカギ
下水道の調査は、**「全部やる」ではなく「本当に必要な場所を、適切なタイミングで」**調査することが重要です。
築年数や路線長だけで判断せず、複数の評価要素を使って優先度を仕分けし、
複数年の計画に落とし込む戦略的な視点が、現場の実効性を高めてくれます。
調査の効率と精度、維持管理の将来性を両立させるには、
「計画力と可視化の力」が、これからの下水道調査には欠かせません。