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下水道スクリーニング調査の実務と活用例
効率的な維持管理の第一歩
下水道の維持管理において、「すべてを詳細に調査する」ことは理想ですが、現実には限界があります。
膨大な延長と予算の制約の中で、いかに優先順位をつけて調査・補修を行うかが重要です。
その第一歩として近年注目されているのが「スクリーニング調査」。
本記事では、その基本的な考え方から、実務の流れ、現場での活用例まで、分かりやすく解説します。
1. スクリーニング調査とは?
📌 簡単に言うと…
「詳細調査をどこにやるべきかを判断するための予備的調査」です。
スクリーニングとは「ふるい分け」の意味。
対象エリア全体をざっくりと見て、「異常がありそうな管路」を選別することで、詳細調査や修繕計画の優先順位付けを効率化します。
2. なぜ必要か?背景と目的
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全国の下水道管路延長は50万km以上
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全路線を詳細調査するには膨大なコストと時間
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一方、老朽化による事故(陥没など)は確実に増加
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→ コストを抑えつつ、ハイリスク箇所を見逃さない調査手法が求められる
スクリーニング調査は、このような背景の中で生まれた「合理的な維持管理アプローチ」といえます。
3. スクリーニング調査で使われる手法
調査方法 | 内容 | 特長 |
---|---|---|
管口カメラ調査 | マンホールから一方向撮影 | 短時間、低コスト。スクリーニングに最適 |
音響調査(打音・音響レーダー) | 空洞・ひび割れの兆候を検知 | 非破壊・非接触。内面の異常検出に有効 |
管口目視点検 | 目視による簡易確認 | コスト最小。経験・勘に頼る部分も大 |
地上磁気探査 | 地中に空洞があるか確認 | 陥没対策向け。限定エリアで活用される |
資料調査 | 補修履歴、苦情記録、施工年 | 危険個所の選定のための判断材料に |
※上記は複数組み合わせて実施するのが一般的です。
4. 実務での進め方(調査フロー)
以下は、実際の自治体や委託業務で使われている典型的なフローです。
▶ スクリーニング調査の流れ
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台帳・GIS・履歴の整理
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対象エリアの選定(築年・材質・事故履歴など)
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現地調査の実施(管口カメラ・目視など)
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異常の有無を判定
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「詳細調査が必要な路線」だけを抽出
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詳細TVカメラ調査や内面検査に展開
5. 活用されている実例
🏙 地方都市A市の事例(中小規模)
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管路延長:およそ150km
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年度:令和3年度実施
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調査方法:管口カメラ+履歴調査
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抽出結果:5割以上は良好、1割は要詳細調査と判定
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成果:詳細調査の対象範囲を従来の60%に圧縮。調査費用約40%削減
🏙 政令指定都市B市の例(大規模)
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管路延長:約800kmをスクリーニング
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データ解析ソフトとAI技術を活用
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GISと連動して異常パターンを自動抽出
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スクリーニング結果を基に詳細調査実施→陥没リスク箇所の早期発見に成功
6. スクリーニングの判断基準とは?
代表的な判定指標
異常の兆候 | スクリーニング結果 |
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軽微なひび割れ・にじみ | 要経過観察(次回再調査) |
クラック・沈下の兆候あり | 要詳細調査 |
明らかな変形・浸入水 | 緊急調査・応急対応対象 |
「これはOK」「これはNG」といった明確なラインを設けることで、調査結果を迅速に整理できます。
7. 実務でのポイントと注意点
✔ 必ずしも“すべて”を調査しないこと
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100%の網羅を目指すと、かえって調査効果が薄れる
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重要なのは“異常がありそうなところを漏らさないこと”
✔ 現場写真・動画の整備
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管口カメラ映像は記録として残し、他部署との情報共有に活用
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発注者説明や予算要望の際のエビデンスになる
✔ スクリーニング後の“迅速な展開”
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異常の可能性があるなら、すぐに詳細調査・修繕に進める体制を整える
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判断遅れが事故や陥没につながるリスクも
まとめ:効率的な維持管理は「スクリーニング」から始まる
スクリーニング調査は、「全部を見ない代わりに、大事なところは確実に見る」ための戦略的な調査です。
これは決して簡易的な手抜き調査ではなく、**“効率を最大化するための技術的選択”**です。
建設コンサルやゼネコンの提案段階でも、「全路線を詳細調査する」以外のアプローチとして、スクリーニングを取り入れることは、コスト意識や提案力の面でも大きな武器になります。