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下水道と感染症
世界的に流行している新型コロナウイルスは終息の目途がなかなか立たない状況ですが、人々は、過去にもコレラ、ペスト、赤痢、チフスなどの感染症のまん延を経験し対策を進めてきました。
特に近代的下水道の建設は19世紀に世界を席巻したコレラの感染症対策として行われました。
下水道は感染症対策としても重要な機能を担っています。
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感染症対策としての下水道
ヨーロッパでは、糞尿の投棄による都市の衛星環境の悪化は様々な感染症の流行を招きました。
当時のヨーロッパの都市では排水を流すだけの下水道の敷設は1370年にパリで開始され、16世紀のロンドンでは雨水や汚水は管きょを通じて河川に流されていました。
しかし、当時の下水道は処理施設が無くそのまま河川等に放流していたため、水質汚濁が問題となり、生活水の汚染等から感染症が流行することもありました。
そこで1856年にロンドンにおいて近代的な下水道の整備が開始されました。それまでテムズ川に放流していた汚水を、下水道により市街地より下流に流下させ放流するようにしました。
その後、活性汚泥法等の下水処理施設が1914年に登場し、汚水の処理が行われるようになりました。
我が国でも、明治12年(1979年)にコレラが流行し帝都東京の衛生環境が問題となり、明治17年に近代的下水道の整備が開始されました。
糞尿や生活排水を生活空間から切り離すことによって人々の都市の生活環境は大きく改善されました。
一方、排水処理においては、適切な排水設備の維持管理が重要です。2003年に香港を中心に感染が広がったSARS(重症急性呼吸器症候群)は、マンションの排水管を経由して建物内部に感染が広がったことが知られています。
香港のアモイガーデンでは、浴室等の排水口のUトラップの水が蒸発してしまい、そこからエアロゾル化したウイルスが室内に侵入し感染が広がりました。
排水管がトイレの排水と共用のため、感染者が親族を訪問時にトイレを使用し、その飛沫・エアロゾル等が排水管を経由して同系統の排水管を使用している他の階の部屋に拡散しました。
下水道による感染症対策の課題と新たな取り組み
汚水に含まれる細菌やウイルスが下水道に集約され川や海に流れ込んだ場合には、牡蛎などの貝類に蓄積され、水揚げされた海産物を経由して再び人の生活に戻ってくる場合もあります。
膜処理等により細菌やウイルスの除去を進めることも行われていますが、一方で海域に対して肥沃な養分を供給する河川の役割とのバランスも課題です。
近年、大阪湾では都市開発・治水・下水道の整備により水質が大幅に改善したため、むしろ栄養分が不足し海産物の水揚げに大きな影響が出ています。
また、下水道施設を運用維持する部門における感染症対策も重要です。社会インフラとして重要な下水道施設を運転継続するためには、その対応要員の感染防止がエッセンシャルワーカー確保の重要な対策となります。
適切な設備の維持を行うことによって下水道からの感染拡大のリスクは大きく軽減されていますが、維持管理要員の安全対策は重要です。
管きょ内で作業する作業員は細菌・ウイルス・有害物質に暴露する機会が多いため、手袋・マスク・ゴーグル等の保護具の着用と、作業後の作業着・保護具の処理・洗浄、手洗い等の感染症予防措置が肝要です。
一方、感染症対策の一環として下水に含まれるウイルス等の検知による感染状況の把握の試みも行われています。新型コロナウイルス(SARS-Cov-19)は長官上皮細胞で増殖することが示唆されており、症状のない感染者の糞便中からウイルスが検出されています。
現在、ウイルスの自動解析技術の開発は大学・メーカーの提携により実用化が図られています。
このような技術や取り組みは「下水疫学」として取り組みが行われており、「仙台市での下水調査を利用したノロウイルス早期検知システム」「WHOのポリオウイルス撲滅プログラム」「ヨーロッパにおける違法薬物検出」など社会実装が行われています。
今後は我が国の各種の下水道整備の技術に加え、各種センサーや分析技術、排水処理技術等の向上により、下水道設備が遅れている国々への国際貢献なども期待されています。
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